某茄子

職場でボーナスという話題が出ることは全くない.額がどうこうとかいくらもらったとか,そういう言いにくい話ではなくて話自体がない.いや本当はあるのかもしれない.ただ僕らの耳に入らないだけなのかも.うちの職場では非正規雇用者にはボーナスは支給されないからね(そんな中でおおっぴらに話題にされてもそれはそれでブチ切れ必至なわけですが).
自分の中高生のときを思い出しても先生は「教員は給料が安い」って,どの人も言っていたような気がする.みんなベテランの先生だったかな.若い先生は…どう言っていたのか思い出せない.でも自分が生徒のときとは全然違うよね.非常勤の先生なんて殆どいなかったもの.1年間で教わる先生の中でひとりいるかいないかだった.今は生徒数の減少,団塊の先生の退職金やらの捻出で教育の世界でも非正規雇用化が進んでいる.だから教わる先生のうち3分の1とか半分ぐらいが非常勤の先生なんて普通に有り得る話しだよ.で「給料が安い」の話に戻るけど,あれは自分の働きに相当して給料が安いっていう意味だったのかな.他の業種,職業と比較しての話だったのかそれはわからない.でも常勤の来年度,今働いているB高校とは別のC高校に行ったら僕も「給料が安い」そう思うのかな.
たぶんそうは思わない.めちゃんここき使われて,へろへろになってもそう思わないだろうな.やっぱり長期の非正規雇用正規雇用者の配偶者,生活の拠り所が他にある人,学生,就職への圧力が少ない一部の女性…ではない)に身を置いていたら,人は考え方を変えてしまうよ.どこまでもネガティブな方向へね.特に僕の場合は正規雇用の経験がないから,ボーナスなんてまだ一度も貰ったことがない.もうすぐ30でそりゃねえよって自分でも思う.情けないなぁと.
ここまでくると社会的構造の問題だよね.高度経済成長期のイケイケの時代だったらともかく,山田昌弘先生じゃないけどニューエコノミーは将来の希望さえも格差を生み出してしまう.本人の努力が必要なのはどこの世界もそうだけど,倍率40倍とかそれで「勉強しなかった」「能力がない」と自己責任論振りかざされてもなんとも言いがたい話だよ(ま「それを選んだのもお前だろう」という意見は受け付けるけどさ.でも他の業種には選ばないで非正規雇用に押し込められてしまった人はごろごろいるわけでしょう?).
「最近の若者は職場への忠誠心がない!」って当然だよな.アホかと.すぐにでも首を切れるシステムを導入しておいて何言ってるんだと.だから僕は(この業界しか知らないけれど)教育の世界に非正規雇用化を導入するのは断固反対ですな.時間単価でしか労働報酬を払わないのなら,その時間のみ働くだけの流れ作業の機械のようだ.がんばってがんばって授業準備なんてしなくなる.生徒の支持を集めようが嫌われようが何も自分の生活水準は向上しないんだからさ.そりゃ学校は正規と非正規の仕事を分けるよ.だって非正規の人の方が仕事できたら困るもの.所詮非常勤講師は使い捨て.人件費等で正規雇用できない環境の中であるなら,めちゃんこ仕事できる人間よりも,ほどほどの人のほうが現場では好かれるのかもしれないね.
そんなことを思ったのは「先生もう本当に仕事しすぎですよ.もう少し手を抜いてください」と,僕が教科を担当しているクラス担任の先生に言われたから.その先生は僕を常勤で取れないことを知ってるんだよね.だから「いつも申し訳ありません」ってペコペコ頭を下げられる.本当にやめて下さいよ.なんか哀れみなのかなって思っちゃうほど嫌な自分になってしまうから.
だから非正規雇用者はみんな手を抜くようになるなんて,さっきのはやっぱりウソ.徹底的にやらなきゃ気がすまない,そういう人間だっている.仕事ができるできないはあるにしても,どんな人間もがんばってりゃ仕事には慣れる.生徒の扱いも思いっきり慣れたベテランの講師の先生がいる一方で,全く仕事のできない2年目位の専任の先生.でも2年目の先生の方がはるかに待遇が恵まれてる……なーんてことを今までずっと見てたら,そりゃ自分のことじゃなくても世の中ってヘンだなと思うようになるよ(って自分もですけどww).この現状でも生徒に「人は努力してたら必ず報われる」なんて言えるのか?ってね.まして自分の授業で「格差社会」とか「フリーター」の話をしている.「アホか? 俺のことだよ.時給単価でコンビニのバイトに負けるよ」なんて大人の事情を生徒に言えるわけがない.ブラックジョークよりもブラックだ.
そんなことを考えて,来年以降も非常勤の先生を思わないとダメだな.人はすぐに自分のかつての立場を忘れる.常勤の仕事が死ぬほど大変で…ま,大変なのは分かり切っているけど,それでも将来のライフプランを組み立てられない非常勤よりは比べ物にならないほど恵まれている(だからって学校側の手先にはなろうとは思わないけどね).人間としての魅力は長きの非常勤生活で目減りしたけど,そういう立場の気持ちはたぶん一生忘れないほど身にしみたから,その経験だけはプラスになったかな.それが某茄子を貰わなかった代わりに頂いた報酬ですよ.