『ニッポン・サバイバル―不確かな時代を生き抜く10のヒント』

前に読んだ作者の『愛国の作法』に比べて圧倒的に読みやすい.それは今回,本書が読者(ネットユーザー)からのアンケートを「お金」「自由」「仕事」「友人関係」「メディア」「知性」「反日」「紛争」「平和」「幸せ」に分けて作者が話し言葉のように丁寧に解説するつくりにしているからだろう.良くも悪くも姜尚中節が全開なのだけど,近年支持層が拡大しているように見えるタカ派の発言をいなす様な(テレビでも見られるような)穏やかな語り口が本作でも展開される.ただそれが不快じゃないんだよね.彼は在日というダブルスタンダードを生まれたときから背負っているわけで,それは我々のような「アイデンティティにブレのない日本人」wwが持つ感覚とは違うと思う.不安定は逆に考え方として安定と均衡とバランス感覚を求めるのだろう.けれど私は決して彼の言葉にタカ派論客が(彼に対して)向けるような生ぬるさを感じなかった.それは考え方はどうあれ均衡を求める作者の真摯な思いを感じることができたからなのかな.
「日本は国際社会に対してこうあるべきだ!」と強く言う人の意見には力強さと安心感から得られる心地よさ感じる.けれど同時にその力強さは自己の考え方から外れる人を許さない強制力を発揮していると受け取れないだろうか(そこが逆に恐ろしいのだ).一方,姜尚中の言葉には相手の反論を受け入れる懐の深さを感じた.だからといって自分の言いたいことを言っていないわけではない.考え方を伝えるという方法はいろいろあるのだけど,彼のそれは方法論だけを抽出しても参考になった.
もはや死語となっているイデオロギー的な側面から彼の著作は賛否両論あるとおもうが一読してみてはどうだろう.たとえ極東アジアの外交などにみられる彼の言動は現実とは乖離していようが,彼の真摯で実直な姿勢は否定されるものではないはずだから.