(8)『2112年9月3日、ドラえもんは本当に誕生する!』

この本を読み終わりました.




僕はてんとう虫コミックスドラえもんを全巻持っているドラマニアなんですが・・・ま,それはいいとして(ただの自慢ですヨ)(どこが?),この本はドラえもんという作品を分析するように,テクノロジーな章とそれを支えるフィロソフィの章から構成されています.第1・2章はドラえもんの秘密道具の科学的な考察の章なので,全然理解できそうもない文系の方は流し読みをお薦めしますw いや,それでこの本を手に取った人が面倒くさくなって読まずに積読のは勿体ないのでね.第3章からは藤子氏のフィロソフィ,ヒューマニズム,倫理観をドラえもんの各エピソードを引き合いに出しながら展開されていきます.
作者がこの本の中で言いたかったこととは,科学の可能性とより良い人間生活への希望,そしてその科学を根底から支えるものはヒューマニズムである,というように読み取れます.以上は言うまでもなく全ての科学者が望み,考えてきたことであり,またドラえもんの作者である藤子・F・不二雄もそう考えたに違いないことは作品をサッと読んでみただけでもわかることです.
ドラえもん(と藤子氏)に感銘を受けた人は,著者だけでもない筈で,全くと言っていいほど理系分野と接点もないコミックス全巻持っている私(しつこい)もドラえもんの猛烈な信者のひとりです.しかしドラえもんの哲学は,科学を学問として志す人だけではなく,科学の恩恵を受けるもの全てが感じていかなければならない課題だと思います.アインシュタイン,キューリー夫人やオッペンハイマーにしても科学がもたらす恩恵とその危険性の狭間で,常に揺れ動いていただろうことは容易に想像できるでしょう.当然のことながら殆どの人間が前述の科学の天才であるわけではありません.それでも私たちは,天才たちが積み重ねてきた科学の恩恵を何も考えずにただ享受するだけではなくて,乏しい頭脳をフル稼働させながら常に我々人類の進む道を考えていかねばならないのです.
そのようなごく当たり前だけどとても大切なことを思い出させてくれるのが,ドラえもんという作品であり,それを子どものものだけとせず,社会の中心となっている大人こそが考えていかねばならないと主張しているのが本作であると言えるでしょう.だからこれは大人の誰もが読める新書として出版される意味があったのだと考えます.1000円もしない安い本ですから,手に取ってみてはいかがでしょう.決して濃密な本ではないけれど,それを元に考えることには繋がっていく筈ですよ.